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プロが教える高速バス

一保をこらえようとしてギラが顔を赤らめるのが、男たちにわかった。 「いや、フランツは帰ってくるだろうけど、おれたちはそうじゃない」ちがう男がいった。
「それは変な話だわ」彼女は反論した。 「フランツが戻ってくるなら、みんなも一緒よ」彼らは首をふって、ただ泣くばかりだった。
ネーデルの母親は、その光景を見て途方に暮れ、気持ちが沈んだ。 それでも気を取りなおして、彼らを励ました。
「さあきあみんな、横になって、ぐっすりとお休みなさいな。 ここに泊まるのだから。
ギラはここに泊まるわ。 朝になれば、もっと気分はよくなっているわよ」つぎの朝、男たちは制服を着て、〈U869〉の埠頭に戻るため、ギラとネーデルの母親と一緒に列車に乗った。
だれも、昨晩のことに触れなかった。 みな、ほとんどしゃぺらなかった。

基地入口で、女性ふたりは、そばで見送れるようにUボートまで同行する許可をもらった。 その日、〈U869〉は、哨戒任務に出撃することになっていた。
女性たちはみんなと一緒に小舟に乗って、Uボートが停泊する小島へ渡った。 そこでギラは生まれてはじめて〈U869〉を見た。
壮麗で誇らしげな機械だった。 そこに彼女の未来があった。
ネーデルがギラの手を取った。 「ギラ、どうかぼくを待っていてほしい」彼はいった。
わせにする」「かならず待っているわ」「出発するぼくのために祈っておくれ」「ええ、もちろんよ」ギラとネーデルの母親は、Uボートの近くに立った。 そこには、ほかに二、三家族が来ていただけだった。
乗組員は、一年近く前の就役式のときのように、Uボートのデッキに整列した。 四人の楽隊が歌いつがれている物悲しい民謡を演奏しながら、埠頭へ行進した。
Uボートが埠頭を離れはじめた。 ネーデルほか乗組員たちは、ほとんどが別れの手をふる家族や友人はいなかったにしろ、デッキの上で予をふりつづけた。
数分後、Uボートは雲におおわれた水平線へ消えた。 「後悔させないよ。
ぼくがきっときみをしあわせにすする。 試練のときUボートを発見した一九九一年からこれまで、チャタトンとコーラーは歴史を信じてきた。

あらゆる文献や資料や専門家が、〈U869〉はジブラルタル沖で沈没したと考えていた。 二年半たったいま、連合軍に傍受された〈U869〉とUボート司令部聞の無線通信によって、ニュージャージー沖のUボートが〈U869〉であることがほぼ証明された。
彼らは、チャタトンがドイツのUボート資料館でコビームーゲルーしたおびただしい数の乗組員名簿から、〈U1869〉のものをさがしだした。 ドイツ軍の階級と職務の省略文字を知るコーラーがチャタトンに電話し、基本事項を読みあげた。
「名簿に五六人の名前がある」コーラーはいった。 「ノイエルブルクという名字の男が艦長だ。
一九一七年生まれ、ということは、えーと、二七歳かっ先任士官は、待てよ。 守プラント、ジークフリート・マプラントだ。
おいおい、まだ二二歳だぜ。 おれたちの友人のホーレンブルクがいるぞ。
通信長、二五歳。 ヴィリ!という名の男が四人、ヴィルヘルビームーゲルは三人いる。
おい、リヒャルトもひとりいたぞ。 ヨハンも。
リッチーとジョンのドイツ語読みだ」「年齢は?」チャタトンが尋ねた。 コーラーはしばらく計算した。

試練のとき「一O代が二四人いる」コーラーがいった。 出撃したとき、一七歳だった」「三シーズンのあいだ、おれたちはこの男たちのそばを泳いだり、遺骨を見つけたりしてきたけど、身元はわからなかった」チャタトンはいった。
「ようやく名前がわかったな」傍受された無線通信の記録を発見したというニュースは、Uボート関係のネットワークにさつと広まった。 多数の専門家にとって、ニュージャージーのUボートの謎はこれで解決した。
本来ニューヨーク行きを命じられたUボートが、ジブラルタルへの針路変更命令を受信できずに進みつづけ、ニュージャージー沖で沈んだというのが真相だった。 チャタトンとコーラーも、謎はとけたと信じていた。
だとしても、〈U869〉物語をここで閉じるつもりはなかった。 沈没船はいまだに、身元を証明する決定的な証拠を譲りわたすのをこばんでいた。
証拠がなければ、〈U1Who〉はじつは、ふたりがそれ以前に推測していた〈U857〉だと頑固に主張する人聞がいるかもしれない。 結局、〈U1857〉がアメリカの東海岸で消息を絶った原因は不明のままだ。
ホーレンブルクのナイフは、盗まれたか置き忘れたかして、〈U869〉が出撃直前に入港したノルウェーで、そのそばに係留されていた〈U1857〉に持ちこまれたのだと主張できなくもない。 この想定が真実とは思われないにしろ、チャタトンとコーラーの前に、あくまで厳しい現実がたちはだかっていた。
たとえば、〈U869〉という艦名が刻まれたタグとか、船体番号や建造者名が記された金属板などが発見されないかぎり、あの沈没船が〈U869〉だと、だれもぜったい確実にいいきることはできない。 チャタトンとコーラーは決心した。
沈没船にまた潜るのだ。 「最年少はオットー・ブリチウスだ。

〈U1869〉がほかのダイバーはしりごみした。 このUボートを潜って、三人が命を落としている。
九死に一生を得たものもすくなくない。 艦内で行ける区画は調べつくした。
「〈U869〉だとわかっているんだし」ダイバー仲間は反論した。 「だれも異論を唱えているわけじゃない。
きみらは歴史を書きあらためた。 なぜ命を賭けてまでやろうとする?」チャタトンとコーラーの答えはおなじだった。
自分が知りたいからだ、と。 チャタトンにとって、いまここで〈Uーwho〉の調査をやめるのは、自分をやめるのと等しかっくふうた。
長年彼は、自分の決めた原則にしたがって、つまり、勤勉と忍耐、徹底と下調べ、工夫と明確な目標こそが、ダイパーを、そして人聞を成長させるという信念にしたがって生き、ダイビングしてきた。 人生哲学をダイビングに応用して、世界有数のレック・ダイパーとなった。
ダイビングに対する姿勢を日常生活に反映させることで、満足し誇りに思える人生を生きてこられた。 確証を欠いた状態で〈UWho〉をほうりだすわけにはいかなかった。
コーラーの心のなかで、遺物採集場所だった〈Uーwho〉は道義的責任へと発展した。 死んだ乗組員に名前をあたえ、遺族の思いにくぎりをつけることが自分の義務だと、彼はひときわ強く思っていた。
チャタトンと同様、いまや彼も〈Uーwho〉が〈U869〉だと確信していた。 とはいえ、ノイエルブルクやeプラントやホーレンブルクの家族に対して、彼らの兄弟や息子は「ほぼまちがいなく」ニュージャージー沖で沈んだこと、〈U1869〉は、アフリカ大陸沖ではなく、「おそらく」アメリカ領海で沈没したと告げるようなまねはできなかった。

コーラーも、夏に〈Uーwho〉のツアーを予定に入れた。 子どものころ父とボートに乗ったときに見た、海に残された死体とはちがって、もうこの男たちに関する疑問を残したままにしておけなかった。
タグなどの動かぬ証拠をさがすつもりだった。 死者に永遠の安らぎを、遺族にはっきりした消息をあたえたいと考えた。
究極の目的が、チャタトンとコーラーをして〈UWho〉に戻らせた。 そのことに関するふたりの意見は、最後の一点まで一致した。
彼ら自身が歴史を変えようとしている以上、それを正確にやりたかった。 調査を進めるあいだに何度も、歴史書の著者の誤解や、正確でない文献や、まちがった見解を持つ専門家がいることを知って驚かされたことがあった。
〈UWho〉は、自分たちの手で歴史を刻む絶好の機会だった。 ふたりはそれを、わずかな不足も欠点もなくやりとおすつもりだった。


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